管理組合運営の良し悪しを数値化する方法

2005/08/13の「今日の話題」で管理組合を会社組織に例えました。このように管理組合運営を会社運営の視点で考えてみると、いろいろと気になることが出てきます。

まず、管理組合の運営状況が明確に数値化されていないことが挙げられます。一般に株式会社では収支報告書や貸借対照表に加えて、一株利益、配当、株価、時価総額などの投資指標が明確になっていて、経営の良し悪しが一目で分かるようになっています。たしかに、管理組合でも収支報告書や貸借対照表はきちんと作られていますが、管理組合の本来の目的はマンションの資産価値の維持と居住環境の向上にあるはずです。ところが管理組合の収支報告書や貸借対照表をいくら読み込んでも、それらの達成状況はまったく分からないのです。管理組合活動の結果、マンションの資産価値がどのように変わったのか、居住環境がどのように向上したのか、それらを具体的な数値で示す指標があるべきです。残念ながら、今の管理組合の収支報告書や貸借対照表は、いくらもらって、いくら使ったか。そして今いくら残っているか程度のことしか表していません。これでは、小学生のこづかい帳の域を出ていません。

では、どうすればいいのでしょうか。
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管理組合活動を企業活動で考えた場合、分譲マンションの所有権は株式になります。そこで、区分所有者は分譲マンションという高額な株券を購入したと考えましょう。新築マンションを購入者は新規上場企業の公募株式を購入した株主、中古マンションの購入者は株式市場での売買で株式を購入した株主と考えることができます。株主が株価の上昇による利益(キャピタルゲイン)を意識するように、区分所有者も中古マンション価格の上昇・下落による利益・不利益を日頃からはっきりと意識すればよいのです。

そのためには、まず現時点でのマンションの資産価値をきちんと数値化して捉える必要があります。それには、仮にマンションの全戸を売りに出したとして、周辺中古マンションの売買価格等から、総売買価格がいくらになるのかを見積もればいいでしょう。これがマンションの現時点での総資産価値となります。管理組合は共用部分のみの資産価値にしか責任を負っていないという意見があるかもしれませんが、実際の売買では専有部分と共用部分の資産価値を切り離して考えることはできないのですから、便宜上合算して考えても問題はないでしょう。

次に居住環境の向上について考えてみましょう。賃貸マンションで考えると、居住環境が良いということは賃借料が高い、居住環境が悪いということは賃借料が安いということで、簡単に指標化できます。したがって、分譲マンションでも仮想的な賃借料を導入すればよいのです。ただし、区分所有者は分譲マンションの所有権という「株式」を持つことによって、そのマンションに管理費等を支払うだけで住むことができるようになっています。すなわち、賃借料と管理費等の差額分については、区分所有者は毎月「配当金」として受け取っていると考えればよいのです。これは株主が企業から受け取る配当金(インカムゲイン)を意識するのと同様に、区分所有者も賃借料と管理費等の差額分を日頃から意識すればよいのです。

上のように考えると、マンションの資産価値も居住環境も、それぞれ中古マンション価格と賃借料として明確に数値化できることになります。そして、区分所有者は日頃からそれらの指標を意識することで、管理組合運営が適正に行われているかどうかを容易に判断できることになります。でも、少しおかしいなと思いませんか?実際にマンションを売却したり、賃貸したりする場合に、管理組合の運営状況の良し悪しはどの程度売買価格や賃借料に反映されるのでしょうか?残念ながら、あまり反映されないというのが現状でしょう。マンション管理組合の運営が適正に行われないという問題の本質はそこにあります。企業の場合は、経営の良し悪しがすぐに投資指標に現れてくるのに、マンション管理組合の場合は、その運営の良し悪しが指標に反映されないのです。これでは、いくら適正な管理組合運営のために努力をしても、まったく報われないことになってしまいますよね。マンション管理士等の専門家に有償で支援を依頼する場合、その支出の根拠もあいまいになってしまいます。

そのためには、管理の良し悪しが中古マンション価格や賃借料に適正に反映される仕組みがないといけません。すなわち、管理の良いマンションは高く売ったり貸したりできる市場原理を社会に定着させる必要があります。今秋から募集の始まる「マンション履歴システム」は、まさにそのような市場原理を社会に導入することを狙ったものですが、私はそれだけでは片手落ちだと思っています。管理組合運営の良し悪しを表す指標、すなわち適正な中古マンション価格や賃借料が区分所有者や一般の購入者にとって明確になることで、初めて管理組合運営の努力が報われることになります。そして、インターネットの普及した現在では、そのことは決して不可能ではなくなったと思うのです。