日本マンション学会「マンション管理実務連続講座」のフォーラムに参加

東京都文京区のすまい・るホールで行われた日本マンション学会の「マンション管理実務連続講座」のフォーラムに参加しました。基調講演は日本マンション学会会長で千葉大教授の丸山英氣氏による「マンション管理法の改正」。丸山氏は、全員一致を原則としていた昭和37年の区分所有法では、合意形成のプロである管理者が管理する形態を予想していたのに対し、実際には素人である区分所有者による管理組合という団体が行う形が広まり、結論を多数決に頼らざるを得ない状況が生じたとの見解を披露。それに伴って昭和58年の改正により特別多数決が導入され、さらに平成14年の改正で建替えも多数決のみで可能になり、「団体法」に近いものに傾いてきたと指摘しました。ただし、リゾートマンションや投資型マンション、上層階・下層階で所得格差の大きい超高層マンションでは素人の管理組合による適正な運営は難しく、今後は「権能を持った専門家が管理の中心になり、区分所有者は管理が適切かどうかを判断するという形で権利を行使するような仕組みが強まってくる」との見方を示しました。引き続き行われたパネルディスカッションでは住宅金融公庫ストック管理課長の富田路昜氏をコーディネーター、国土交通省マンション管理対策室長の飯島正氏、弁護士の折田泰宏氏、マンション管理センター主任研究員の村井忠夫氏、高層住宅管理業協会専務理事の梅田勝利氏、全国マンション管理組合連合会事務局長の谷垣千秋氏をパネラーとして「区分所有法改正後の新しいマンション管理」をテーマに討論が行われました。折田氏は今回の改正で取り入れられなかった点として、(1)床スラブ下排水管の判例もあるように、共用部分と専有部分の定義の見直すべきこと、(2)住戸が売買されたときに共用部分の損害賠償請求権が自動的に移転されるようにすべきこと、(3)大多数を占める法人格の無い管理組合についての規定を設けるべきこと、(4)駐車場専用使用権のような原始規約の問題は、管理規約の衡平性では解決できず、宅建業法でカバーすべきこと、(5)政府の方針で追加された電子化については十分な議論がなされておらず、今後検討する必要があること、(6)増築などマンションの長命化に対する整備をすべきこと、(7)不動産の購入・処分や滞納管理費の放棄を多数決で決められるのかを明確にすべきこと、(8)売買契約が出来てから管理組合が立ち上がるまでの管理について定めるべきこと、を挙げました。飯島氏はマンション管理士の活用の場として、原始管理規約の適正化のためのチェックと、リゾートマンションや賃貸化の進んだマンションでの管理者等としての活用を挙げ、実務経験の少ないマンション管理士のために事例集を発刊することや、マンション管理適正化センターに紛争処理に関する機関を設置して、マンション管理士を活用する考えを述べました。また標準管理規約の改正は、4月以降に行うマンション管理についての大規模調査の結果を踏まえて行うとし、年末になるとしました。さらに都道府県単位の「マンション管理推進協議会」を設置する考えも披露しましたが、その概要図の「専門家協力団体」の中にマンション管理士会の名前が存在しないことがちょっと寂しかったです。村井氏は「適正化法が出来てパンドラの箱のフタが開いた」との表現で、マンション管理適正化法が出来たことにより、相談件数も増え、どこのセミナー会場も満員になるほど関心を持つ人が増えたが、相談内容の根はむしろ深くなっているとしました。その原因として、どこの管理組合も役員になりたくない人が多く、役員任期は1年が多いことから、問題に気が付かないか、気が付いても目をつぶってしまうことにあるとしました。したがって、マンション管理士が助言を求められる際には、問題が相当こじれた状況になっている可能性が高いとし、そのときに対応できるように今のうちにスキルを蓄積しておいてほしいと訴えました。また、マンション建替え円滑化法の中ではマンション建替え組合の組織が詳細に規定されているのに対して、改正区分所有法の中では管理組合の組織像が見えてこないことを疑問視し、特に財務会計についての規定の必要性を指摘しました。さらに総会の出席者が少ないという現実が、大事な意思決定の場である総会を形骸化させていることを憂い、たとえ大規模修繕が普通決議で簡単にできるようになったとしても、反対者が実際の場で非協力になる危険性があることを示しました。したがって、管理組合の力量がますます問われる状況になるとし、マンション管理士の助力が必要であると結びました。梅田氏は今後管理会社は金太郎飴のような画一的なサービスから脱却し、それぞれのマンションに合った適正な管理をしたいとの意思表明を行いました。また平成7年の阪神淡路大震災でコミュニティーの重要性が教訓として残ったとし、これからのマンション管理のあり方として、コミュニティー形成のための支援事業を規約に定めるべき事項として追加すべきとの考えを示しました。谷垣氏は今回の改正で一番残念なこととして、「管理組合」という文字が相変わらず出てこず、管理組合の実態と法の規定が一致していないことを挙げ、「普通の学校教育を受けた人が読んですぐに分かる内容にしないと、マンションに関する法律としては不十分」と指摘。また、管理組合の運営能力に大きな格差が生じてしまっているとし、管理組合や原始規約の重要性について、分譲段階から区分所有者に広く認知させる仕組みを整備する必要性を訴えました。さらに、区分所有者に「マンション管理が楽しい」と思うように持っていくのがマンション管理士の役割との考えも示しました。最後にコメンテーターとして丸山氏は、管理者制度で代理人に管理を任せる場合はもちろん、管理組合により区分所有者本人が自治を行う場合でも、本人の能力を補完する制度が必要であるとし、「マンション管理士にがんばってほしい」と期待を寄せて結びました。区分所有法改正がテーマのパネルディスカッションでしたが、なんとなく全体的に、法律でカバーできない実務部分に関して、マンション管理士に対する期待が多かったような印象を受けました。もしパネラーの中にマンション管理士がいれば、それほど期待が大きいのなら、マンション管理士が活躍できるような法整備、例えば管理者制度としてマンション管理士を業務独占資格にしたり、継子扱いのマンション管理士会を正式に認知したり、むしろそういったことを積極的に進めてほしいと訴えたかもしれませんね。長くなりましたので今日はここまで(最長記録か?)。