権限委譲のススメ

理事長がワンマンで何でも決めてしまって、他の理事はそれに同意をするだけという管理組合があります。理事会はまさに理事長の独壇場となっていて、理事長ひとりが熱弁をふるっていますが、それに逆比例して他の役員の気持ちは冷めるばかりです。伏し目がちに黙ったまま、早く家に帰ってテレビを見たいと時計ばかりを気にしています。

逆に何事も理事会で役員全員で話し合って決めないと動けない管理組合があります。誰も責任を持ちたくないのか、いちいち細かいことを決めるにも理事会決議を通さないと気が済まないのです。役員全員で話し合いながら内容を詰めていくのですが、なかなか具体案がまとまりません。誰からも意見が出ないか、逆に色々な意見が後から後から出てきて収拾がつかなくなり、毎回時間切れで結論が出ずに継続審議の繰り返しになってしまいます。結局何も決まらずに、何も出来ずに終わるか、あるいはそのまま次年度の理事会への申し送り事項になるのがオチです。

どちらも理事会運営に失敗しているケースと言えるでしょう。では、いったいどうしたらいいのでしょうか?

その答えは、各理事に権限委譲を進めることです。各理事の役割分担を明確にして、その仕事に対する一切の権限を委譲しましょう。そうすることによって、理事長の負担も軽減しますし、理事会もダラダラと時間をかけずに済むようになるはずです。

例えば、管理組合行事として防災訓練を行うことが事業計画で定められていて、予算も決まっているとしましょう。しかし事業計画では、具体的な実施日時や訓練内容までは細かく決まっていないですから、それを誰かが決めないといけません。
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このような場合、防災担当や行事担当の理事を決めて、その人に権限委譲すればいいのです。ただし、権限委譲されたというのは、好き勝手にやっていいということではありません。まず、事業計画や予算案から逸脱することはできません。もし逸脱するなら、理事会や総会の承認が必要になりますが、その枠の中であれば、その理事の自由裁量です。そして理事会の中では、自分で作り上げた具体案を報告する義務があります。ただし、それについて理事会の承認を求めてはいけません。理事会の承認を求めるというのは、それが失敗したときの逃げ道を作るようなものです。

理事会の中で説明するのは、他の役員からコメントや助言を求めるためです。権限委譲された理事がその役割を無事果たせるように、他の役員全員はあらゆる援助を惜しんではいけません。理事会の場ではいろいろなコメントが上がると思いますが、それを取り入れるか、無視するかはその理事に決定権があります。そして、その防災訓練が成功するかどうかも、その理事の全責任になります。自分の自由裁量で詳細を決める権限を得ると同時に、それなりの責任も発生する訳です。

このように権限委譲をされた理事は、自分がやりたいことを自由にやることができますので、思う存分に力を発揮してくれるようになります。誰でも人から命令されたことをやるときにはあまり乗り気がしませんが、自分でやろうと思ったことをやるときには労力を惜しまないものです。何よりもその仕事が楽しくなってきますし、自分の力でそれを達成できたときには、本当に幸せな気分になります。この達成感によって得られる喜びは、報酬によって得られる喜びにも勝るものです。

食欲は食べることで満たされますが、おなかがいっぱいになるとそれ以上は食べることができなくなります。お金儲けも楽しいですが、いくら儲けても必ずそれ以上欲しくなり、永遠に満たされることはありません。しかし、「やりがい」や「達成感」によって得られる幸福感は、それだけで十分に満足が出来て、しかもおなかがいっぱいになることもなく、いくらでも味わうことができるのです。

私も自分の住むマンションの管理組合で新任理事になったときに、広報紙の作成を始めましたが、その内容についていちいち理事会の承認を得ることはしませんでした。事前にドラフトを配布して他の役員から得るのは、コメントであって承認ではありません。そのコメントを採用するか捨てるかは私の判断です。そして広報紙の内容については、私が全責任を負っているという意識で仕事をしていました。理事会の承認なしに、自分ひとりの責任で仕事を進めていくのはプレッシャーになりますが、その代わりに得られる「やりがい」や「達成感」は他では得られないものでした。

管理組合を活性化するには、まず理事会を活性化する必要があります。そのためには、各理事への権限委譲を積極的に進めることを心掛けましょう。