マンション管理士は管理者受託を目指せ

現在のマンション管理士の一般的なビジネスモデルは、管理組合と顧問契約を締結して、理事会に助言・指導を行いながら、管理会社の目付け役になるというものです。しかし、このビジネスはどう見てもニッチ(規模の小さい「すきま市場」)に過ぎません。なぜなら、世の中の大半のマンションは管理会社に全部委託をしており、マンション管理士が顧問契約を締結するには下記の条件がすべて揃っていることが必要だからです。

(1) 管理組合がある程度主体的に活動しているか、少なくとも主体的に活動する必要性を感じていること
(2) (1)の改善について専門家の助言・指導を必要としていること
(3) (2)のために専門家に支払う資金的な余力があること

ところが、これらの条件をすべて満たすマンションは全体の中でそれほど多いとは思えませんし、今後それが増えていくこともあまり期待できません。今まで、各地のマンション管理士会による様々なPR活動やマスコミ報道等により、それなりにマンション管理士に対する社会的認知度は高くなってきたと思います。しかし、実際のビジネスに結びついているケースは極めて少ないというのが現状ではないでしょうか。せっかくマンション管理士制度が出来て、熱意にあふれるマンション管理士が多数生まれているのに、その一方で満足な管理ができずにスラム化への道を直進しているマンションがある。これは社会的に見れば大きな損失以外の何者でもありません。
—UnderThisSeparatorIsLatterHalf—
政治に不満はあっても、自分が政治家になってまで世の中を改革していこうという人はごく少数です。標準管理規約が謳うマンション管理組合の所有者自治は、ひとつの理想形ではありますが、現実的ではありません。多くの所有者は自ら管理者になることを望んでいませんし、たまたま管理者として腕を振るう所有者が現れたとしても、その後は後継者の不在に悩むことになります。仕方なく特定の所有者が長期に亘って管理者として動くことになりますが、それによる弊害も生まれます。仮にうまく続いたとしても、その管理者がいなくなった場合に、その管理組合は機能を失うことになります。反対に、万一その管理者と他の所有者との間にトラブルがあったときには、そのマンションから退去することも覚悟しなけれなりません。これは決して理想的な姿ではありません。

一方、現在の管理会社が提供するサービスには、下記の限界があることがはっきりしてきています。

(1) フロント担当者が多くの物件を抱えすぎていて、キメの細かいサービスができない
(2) フロント担当者や管理員に対する教育・指導が十分でなく、品質にバラツキが大きい
(3) サービスが画一的でマンション個別の要求に対応できない(例えば所有者が本当に興味のあるのは自分のマンションの出来事や話題なのに、画一的なコミュニティ紙をバラまいている)

では、どうしたらいいのでしょうか?ひとつの答えは、管理者型のマンション管理にあると思います。

マンション管理士の真の活躍の場は、顧問業務ではありません。管理者業務です。管理者業務を受託して、初めてマンション管理の主役となれると思います。そうでなければいつまでも脇役の座で、少ない出番に甘んじていなければいけません。現在のマンション管理士の顧問契約というビジネスモデルが、世間一般であまり受け入れられるものではないということは、マンション管理適正化法施行以降のこの3年間の実績が証明していると思います。

多くの管理組合が本当に望んでいるものは何なのか?それは、より良い管理サービスをより安価で提供してくれることです。現在の管理会社のサービス品質に限界があるのなら、マンション管理士が専門性を発揮して、それを越えたサービスを提供すればいいです。そしてそれを実現する社会的環境は十分に整っていると思います。

18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命は、機械の導入による労働の細分化と大量生産をもたらし、その後労働集約型の産業が発展しました。今の管理会社がそれに当たります。フロント担当者や、会計担当者、技術担当者、管理員を雇用し、すべての顧客に画一的なサービスを提供する。保守管理業務はすべて外注です。それによりマンション管理業務は効率化して、低コストで均質のサービスが提供できるようになりました。分譲マンションの黎明期で、所有者の管理意識が低い時代にはそれなりの意味があったと思います。無知無関心の所有者ばかりでも、ある程度均質のサービスが提供できたからです。ただし労働集約による低コストについては所有者に還元されることなく、そのまま管理会社の利益になっていたことが問題でした。その後マンション管理適正化法の施行などにより、所有者の意識が高まった結果、管理会社に対する値下げ要求が強まり、労働集約による低コストの利益が所有者にも還元されるようになってきました。近頃では、管理会社に対する値下げ要求を代行する企業まで現れたほどです。

たしかに、管理会社に支払う管理委託費の削減は、修繕積立金が不足しがちな管理組合にとって、マンション管理の適正化に向けた大きな改善点ではありますが、それはごく一部でしかありません。修繕工事や改良工事、高齢化対策、IT化対策、マンションの再生や建替えに向けた合意形成など、管理組合が取り組まなければならない課題は尽きることがありません。しかもこれらはマンション個別での対応が必要なものであり、労働集約型の管理会社は最も不得意とするところです。多くのマンションではそれらは管理組合自身で取り組むしかない課題であり、管理者として有能な所有者に恵まれた一部のマンションを除けば、対応がなおざりにされていたことは否めません。

しかしこれからの情報社会は、インターネットを通して個人レベルで情報発信・交換ができる時代です。コンピュータを活用することで個人が様々な業務を低コストでこなすことができるようになりました。管理会社による労働集約型のマンション管理サービスに頼らなくても、情報技術の活用により、個人のマンション管理士がマンション個別の要求にキメの細かい対応ができる時代になったのです。そのようなキメの細かい対応を安価にできる専門家が、これからのマンション管理に求められていると思います。

マンション管理士が管理者に就任する形の新しいマンション管理の形を提案し、それが本当に管理組合にとってメリットがあるものならば、必ず受け入れらるはずです。管理会社の変更で単なる「値切り屋」になるのではなく、自らが管理者として就任することにより、より安価で、より良いサービスを提案できることが求められています。

今の管理会社に一番欠けているものはサービス精神です。区分所有者の無知無関心をいいことに、長年サービスの質を高める努力を怠ってきました。高齢者の積極雇用による人件費の削減で低価格を売りにする管理会社も現れましたが、そのサービスは既存の管理会社の枠内に留まっていて、管理組合に本当の満足を与えているとは思えません。そこにマンション管理士としてのビジネスチャンスがあると思います。サービス業はお客様に「満足」を売るのが基本ですが、管理会社の多くはそれを忘れてただ契約書に定められた管理業務をこなすだけの存在になってしまっています。マンション管理士はマンション管理に関する専門家として、お客様に「満足」を売るだけでなく、それを一歩進めて「感動」を売ることが出来るようになってほしいと思います。

ただし、マンション管理士が管理者として個人で契約する場合、ひとつの問題は、そのマンション管理士に事故があった場合に管理組合活動がストップしてしまうということです。また、管理組合にとって、どのマンション管理士に管理者業務を委託すればいいのか、判断材料も少なく、良いマンション管理士にめぐり合うのが極めて困難という問題もあります。これらを改善するには、やはり複数のマンション管理士から構成される団体が管理者業務を受託し、管理者を派遣するのが、管理組合にとってもリスクの少ない委託方法だと思います。当然その団体には、既存の管理会社と差別化できる要素が求められます。例えば下記のようなサービスの提供が考えられます。

(1) 苦情受付窓口を設け、お客様からの苦情を受付け、迅速に対処します。
(2) マンション管理に関するアンケート調査を毎年実施して、その結果と対策を報告します。
(3) 管理者や管理員に定期的な研修を行います。この研修には単なるマンション管理に関する基礎に留まらず、実務を題材にしたケーススタディ、気配りやホスピタリティー、プラス思考などの人間性教育までカバーして、プロの管理者や管理員を養成します。管理員が休暇または事故の際には、臨時の管理員を派遣します。
(4) メンター(助言者)制度を設けて、メンターは定期的にマンションを巡回し、管理者に助言・指導を行います。
(5) メンターは管理者に事故があったときには、臨時に管理者業務を代行します。
(6) マンションの資産価値の維持状況をモニターするために、マンション販売価格の時価総額の情報を所有者全員に提供します。
(7) マンションの管理状況をモニターするために、全マンションの管理状況の平均値との比較データを所有者全員に提供します。
(8) 全戸配布の広報紙は、管理会社が発行するような画一的なコミュニティ紙ではなく、そのマンション独自の出来事や話題を提供する広報紙を発行します。
(9) 管理組合ホームページも提供します。ブログによるホームページにして、管理者が管理日誌を気軽に記録できるようにします。
(10) 所有者・居住者全員によるメーリングリストを構築して、気軽に情報交換ができるようにします。
(11) マンション内のイベントの企画立案も行い、良好なコミュニティー形成を支援します。

この団体が管理者業務を受託することは、あるいはマンション管理士の有志が新しい形の管理会社を作るということになるかもしれません。マンション管理士が共同で管理会社を設立したとなると、それだけでも話題性は十分でしょう。しかし、それにより既存の管理会社に出来ない良質のサービスを安価に提供することができるようになれば、管理組合にとってメリットが大きいと思います。もし同様なサービスを提供する管理会社がいくつも出来て、サービス競争になれば、管理組合にとっては歓迎すべきことです。マンション管理適正化法の枠の中でマンション管理士として何が出来るのかを考えるのではなく、管理組合にとって何が理想的な管理サービスなのかを考えれば、これからマンション管理士は何をすべきなのか、自ずと明らかになっていくと思います。