区分所有者と管理組合の対立

日経BP「マンション新時代」の「フレッシュ・アイ」の「マンション管理士の業務日誌(第2回)で、この記事の筆者の事務所に来る電話相談の内容が紹介されています。それによると、一番多いのが区分所有者と管理組合の対立だそうで、それらは(1)相談者の被害妄想が強く、自身の人格に疑問がある場合、(2)理事会はキチンと活動しているが、「情報開示」が十分になされていない場合、(3)管理組合が「首領(ドン)」のような悪意に満ちた理事長に支配されている場合の3通りに分かれるとのこと。私の場合は区分所有者と管理組合の対立による相談はそれほど多くはありませんが、それでもたまに相談を受けることがあります。ただし、電子メールでの相談が中心のせいか、上の(1)のケースはほとんどありませんね。このような場合は、相談内容をメールの文章にまとめているうちに自分自身で問題点の整理ができるのか、あるいは、そもそもこのような人はメールでは相談してこないのかもしれません。多いのは(2)の情報公開が不十分のために理事長や理事会に対する不信感が募っているケースで、一度理事長と腹を割って話し合う場を設けてもらうことで解決することが多いのですが、問題は(3)のケース。相談者の訴えを聞いていると理事長はとんでもない悪人と相場が決まっていて、しかも最近多いのはこの「悪徳理事長」がマンション管理士という話。しかし、この手の相談は本来両方の当事者の話を聞いてみないと、真相は分からないものです。芥川龍之介の「藪の中」や、黒澤明の「羅生門」で描かれたように、同じ事実を見てもそれぞれの当事者がまったく異なった証言をすることは多いですので、一方の当事者からの情報だけを鵜呑みにすることは禁物です。このような場合、私はいつも「マンションの中では何が正しいかではなく、みんながどう考えるかですべてが決まるんですよ」と助言することにしています。誰でも自分の考えや自分のしていることは正しいと思うものですが、マンション管理組合は民主主義による多数決原理ですべての物事が決まる世界です。法や規約に抵触していない限り、そのマンションをどのように運営していくかは、そこの区分所有者の総意で決めていく話です。マンションの中で自分の意見を通したかったら、結局のところ自分の考えに賛同してくれる味方を地道に増やしていくしかないのです。もちろん、そのために必要となる法的な助言や、ノウハウの指導は行いますが、マンション管理士はクライアントだけを見て対応するのではなく、常にマンション全体に目を向けて考えることが大事だと思っています。